注目されていた武富士事件の最高裁判決が平成23年2月18日に下されました。
武富士事件とは、経営破綻した武富士の元会長夫妻から平成11年に贈与された外国法人株をめぐり、約1,600億円に上る申告漏れを指摘された長男Aが約1,330円の追徴課税処分の取り消しを求めたものです。これについては一審・地裁で納税者勝訴、二審・高裁で国税勝訴となっており、今回の最高裁で納税者の逆転勝訴に至りました。
まず今回のポイントとなったのは、長男Aの「住所」です。
贈与当時(平成12年度税制改正前)、海外居住者への海外財産の贈与は非課税扱いでした。そのため「居住地」が日本国内か海外かが争点となったのです。Aの当時の生活状況として、弁論で武富士元専務側は「当時65.8%を香港で過ごし、生活実態もあった」などと主張していました。これに対し国側は「滞在は課税回避目的。仕事上の本拠地も日本」などと反論し、最高裁まで争うこととなりました。
最高裁判決において裁判長は、過去の判例を踏まえ「客観的に生活の本拠としての実態を備えているか否かによって決めるべきだ」と指摘しています。そして贈与前後の期間の3分の2を香港で過ごし業務に従事していたことなどを挙げ、「贈与税回避の目的があったとしても客観的な生活の実態が消滅するものではない」として、一審同様Aの住所について海外であることを認定しました。
今回の武富士事件最高裁判決の価値は、裁判長による次のような補足意見にあると言われています。
「一般的な法感情の観点から結論だけみる限りでは、違和感も生じないではない。しかしそうであるからといって、個別否認規定がないにもかかわらず、この租税回避スキームを否認することには、やはり大きな困難を覚えざるを得ない。」「納税は国民に義務を課するものであるところからして、この租税法律主義の下で課税要件は明確なものでなければならず、これを規定する条文は厳格な解釈が要求されるのである。明確な根拠が認められないのに、安易に拡張解釈、類推解釈、権利濫用法理の適用などの特別の法解釈や特別の事実認定を行って、租税回避の否認をして課税することは許されないというべきである。そして、厳格な法条の解釈が求められる以上、解釈論にはおのずから限界があり、法解釈によっては不当な結論が不可避であるならば、立法によって解決を図るのが筋であって、裁判所としては、立法の域にまで踏み込むことはできない。後年の新たな立法を遡及して適用して不利な義務を課すことも許されない。結局、租税法律主義という憲法上の要請の下、法廷意見の結論は、一般的な法感情の観点からは少なからざる違和感も生じないではないけれども、やむを得ないところである。」
長くなりましたが、この補足意見には基本的な原理である租税法律主義の下での課税要件明確主義の精神が忠実に表れています。行為実行時の法律になければ不利益処分を課することができないというものです。
このように、租税回避スキームであることは認知されつつも租税法律主義の下で課税とならなかったという点について、常に法に返って判断することの重要性が伺えます。
そしてこれについては、平成12年度税制改正によって現在では課税される点にも注意して頂きたいと思います。